とあるブログで勧められていて、早速ポチッとした本。
今回は珍しく、Kindleではなく紙の本で。
全体を通して、他国の事例を踏まえながら、凄く分かりやすく今後の国、地方の行政府の未来の一つを示してくれた本といった感じですかね。
データなどをもとにした学術書というよりも、大まかに今後の展開が対話形式で書いてあったのでとてもわかりやすかったです。
1.行政府の課題と「行革」までの流れ
まずは現在の行政府の課題について。
人はどんなに努力しようとも、どんなに執拗な機械化教育を幼年期から施されようとも、「機械」にはなれない。にもかかわらず近代の行政システムは人に機械であることを求め続ける、なかなか酷なシステムだった。
ここで主に語られているのは、行政府というソフトについてそろそろアップデートする必要があるよね、という問題提起。
現在の組織として(これは行政に限らず恐らく大企業も)、昔の郵便局やフォードなどにならったようにあくまで一つの「歯車」として機能することを求められているということ。
これは一世代前においては最新のソフトだったし、社会の問題を解決する上で大いに役立った。
という通り、近現代において社会問題を解決するための組織としてはとてもいいソフトでした。
ただし、今の官僚機構も行政サービスも「同じものを大量につくる」という工業社会のモデルに沿う形で作られているため、画一的な製品となってしまう。
昔は人の価値観が多様ではなかったし(価値観の多様性が許されていなかったのほうが正確かもしれないけど)、そのため多数の問題だけを解決しておけばよかった。
もちろん、多数の問題だってたくさんあって大変だったと思うけど。
このあたりは高度経済成長期における地方から都市部へといった流れも関係していると思います。
けど、その問題も大分解決できるようになって、今度は少数派の人達の意見もちゃんと反映しよう。
少数派の人達の問題もしっかり解決しよう。
それに加えて、価値観は一つじゃないから色んな考え方があっていいんだよと世の中の風潮になってきた。
よーく考えるとこの原因って何なんだろう。
社会の成熟なんでしょうかね?
ただ結果として、今まで顕在化していなかった社会の問題がたくさん起きるようになって、今のソフトでは対応が難しくなってきた。
先進国の場合、それに加えて人口減少と少子高齢化の波が一気に来ているといったところでしょうか。
これまでの行政改革はというと、大筋では、政府を小さくするか大きくするかの2択であったけれど、世界のあちこちでいろいろと試行錯誤がなされた結果、どちらも一長一短であることがわかっている。大きくすれば財源が足りないし、小さくすれば不平等が起こる。少ない財源で可能な限り大きく公正なシステムをいかにつくりうるか、ということになるわけだが、そんな「できない相談」も、デジタルネットワークをうまく使うことで解決できるのではないかというのが「ガバナンスイノベーション」と呼ばれる「行革」の基本的な道筋となっている。
そして、大きい政府と小さい政府の2択の問題と考えられていたけれどどちらも無理!
こんなの対応できない!!
(今話題の官僚のブラック職場なんかもそうでしょう)
ってなっていることから、そろそろ新しいソフト考えようよ!
っていう流れの中で、「行革」として期待されているものの一つがICT。
もちろんこの流れとしては当然ICT化していったほうがいい。
なぜならICT化は少ないパワーで大きな効果を発揮できるからです。
ただ、考えなければいけないのがICT化するにあたってもしばらくは2重のサービスが必要であること。
それはパソコンやスマホを使いこなせない人達がいるため(主に世代の問題)、必ずしもFAXや郵送といったものは無くすことができません。
そうなるとしばらくの間は2重のサービスが続くことになります。
これは銀行や保険会社なんかも同じでしょう。
また、画期的なICTサービスを提供できる民間企業があるかどうかというところも問題ですね。
法律的な課題もあるのかもしれませんが、結局新しいサービスが開発されなければそれを使えません。
ベンチャー企業であれ、大手IT会社であれ、そういったサービスを開発していってほしいです。
2.今後の行政のあり方について
ICT化も含めた今後の行政のあり方について。
本の中では、以下のように述べられています。かなり掻い摘んでますが。
「当時者を中心に物事を考える」
「ライフイベントにあわせて」
「誰も排除されることのない社会」
「誰もが自分の行きたい人生を生きられる社会」
「健康で健常な人の論理だけが優先されるのは、まったくインクルーシブではない」
うん、そうだ!その通りだ!
そんな世の中にしていきたいし、昔と比べて世の中ってそういう方向になっているよなーと。
自分が小学校ぐらいの頃はバリアフリー?みたいな感じだったし、女子はまだブルマーでした。
変わったばっかり途中で短パンになったけど、女子で短パンって変なのと思った記憶がある(今から考えるととんでもないですよねw)。
カバンだって、ランドセルじゃなければ駄目だったし、色も男の子は黒、女の子は赤だったし。
当時はそんなことに疑問も感じなかったし、画一的なことに違和感も覚えることはありませんでした(自分が多数派だったということかもしれないけど)。
今は恐らくそんなことはないだろうし、世の中はそういう方向に進んでいる。
だから、これもその通りだと思います。
けどね。
これを全て行政が担っていたら行政がパンクしてしまう。
(もちろん、税金を払ってるんだからやれよ!とは思う気持ちはあるけれどw)
まあ、財政面でも、これを全て担うために税金を徴収していないですしね。
じゃあ、どうすればいいのか。
「行政府がラストワンマイルまではやらない」
ということ。
今までで言えば、最後の最後まで行政府がやっていたけれどそうではなくて、あくまで基盤や制度を整えるまで。
本書ではイタリアでの災害対策を例にあげているけど、
イタリアは災害が多く、私たち公務員だけではとても災害救援はできません。私たちは直接支援するのではなく、被災者が何を必要としているかを聞く立場なんです。
というように最終的な救助については「市民」にやってもらう。
行政府というのは、国家の一部であるのですが、その国家というのがなにかといえば、少なくとも民主的な政体において国民そのものわけですから、原理原則を言えばそこには統治者と非統治者という関係性はなくて、一体であるはずですよね。
行政府というのは、あくまで社会の一翼を担っているもので、万能ではない。
すべての社会問題に対応するにはそれ相応のコスト(ヒト・モノ・カネ)が必要になってくる(もちろん、効率・効果的に社会問題な対して対応していくべきではあるけれど)。
なので現在の風潮としては市民・住民にも協力してもらうこと(個人的には協力ではなくより主体的に住民としてできることをするといった意識になるべきかと)。
このあたりは国のほうでも政策として出されていますね。
本にも出てきましたが、昔は町民が火消しとして活動していた(町火消)ように、すべてが行政が担っていたわけではなかったです(今でも消防団がありますね)。
日本ではボランティアや募金やNPOが根付いていないなんて言う批判をよく耳にしますが、個人的にはそんなことはないんじゃないかと思います。
それは形を変えて自治体だったり、学校だったりが担っていただけなのではないかと。
逆に言うとNPOなどのノウハウが育っていなかったとも言えますが。
このあたりはNPO法人という形にして、給料も払われる(ある意味会社のような)形式が増えてはくると思います。
3.今後の行政の役割
以上を踏まえた流れとして、本書では以下の3つに行政府の役割が集約されています。
次世代行政府の役割は次の3つに集約されるのではないかと思います。社会インフラの提供、サービスの提供、コミュニティの再構築
社会インフラの提供、サービスの提供については今までと同様ではあると思います(もちろん中身はどんどんアップデートしていますが)。
特に特徴的なのはコミュニティの再構築。
このあたりが実は国も含めて地方公共団体が進めていると思います。
町内会、PTA、家族、ご近所といった昔からの付き合いやコミュニティがなくなりつつある中で、そういったコミュニティをもう一度作り上げていくことで、防災、福祉の問題で解決できることの幅が広がると思います。
コミュニティを再構築することで課題を解決する方法は「コミュニティソリューション」と呼ばれ、配給モデルの「ヒエラルキーソリューション」、市場任せの「マーケットソリューション」と異なる考え方として近年特に重視されています。
このコミュニティソリューションについては今後広がっていく考え方なのではないかと思います。
例えば、災害での生存確認も行政職員が一人ずつ確認していくよりも、近所の人で確認したほうが圧倒的に早いし、効率的でしょう。
ただ、問題なのは2つ。
1つは、市民側にその準備があるのか?ということ。
2つ目は、行政府は受け皿を作るのは得意だけど、その後に一緒に伴走するノウハウがやい。つまり、人を育てるのが苦手だということ。
このあたりはこれからの課題ですかね。
市民側に準備をしてもらうには長い年月をかけて根付かせていく必要がありますね。
それは教育ももちろん、市民参画の機会の提供もだし、民間企業の理解も必要になってくるでしょう。
また、人を育てるのが苦手という点についてはこれも受け皿をつくりながら、失敗しながら身につけていくしかないですね。
まあ、公民問わず伴走して、人を育てるのは難しいですからね。
ただ、コミュニティソリューションだけでは限界もあると思うので、本書に出てくる
ネットワーク化された自律的なスモールビジネスの振興
といった考え方も組み合わさるといいですね。
ただ、実際に3つの役割を担っていくにあたり、以下のような魅力的な行政府になる必要があるとも本書では書かれています。
魅力的な行政府には共通な特徴があるということです。「オープンでコラボラティブ」「多様な能力や資格を持った人が活躍している」「社会に対して積極的に働きかけ、市民のインサイトを的確に把握して政治家に働きかけることができる」「長期的な展望を持っている」
個人的にはそのためには首長の能力と組織としての柔軟性が必要になってくると思います。
特に組織の柔軟性という点では職員自体も民間との入れ替わりがもっと増えるといいのではないかと思います。
最近では民間企業出身の受け入れや逆に出向なんかも進んでいるみたいでいい傾向です。
起こしたい変化をアウトカムと呼び、その変化のために必要なサービスプログラムをアウトプットと呼ぶ
このようにアウトカムを明確にしたアウトプットをしていってほしいです。
4.まとめ
あとがきにまとめられなかったので対話形式にしたと書いてありましたが、そのおかげで色々な話が盛り込めたのかなと。
ムック本ならではといったとこでしょうか。
ちょうど現在の国会では桜問題やらホテル問題やらと色々とやっていますが、どうなんでしょう。
あらゆる人が自分のいきたいような生き方を選択できるような社会をつくっていくことが、ここではとても大事なのです。
とありますが、きっと政治家の方々にも生きたい生き方があるのだと思いますが、
行政府は「共感」を軸として機能しなければならない
少なくとももっと色々な大きな問題がある中で、国民の共感を得ることができるのでしょうか…